今回から、JMDCのデータベースを小児領域の学術研究にご活用いただいた事例を紹介していきます。
初回は、愛知医科大学医学部 衛生学講座 教授の鈴木 孝太 先生が、令和3年度厚生労働科学研究費補助金・成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業-成育基本法を地域格差なく継続的に社会実装するための研究-(研究代表者:山縣然太朗氏)から助成金を得て取り組まれた「医療レセプトデータを用いた、小児疾患の有病率に関する研究」よりご紹介します。
はじめに
小児の疾病、特にアレルギー疾患などの有病率については、厚生労働省が3年ごとに実施している患者調査で推定されていますが、経年的な変化や詳細な記述などはほとんど行われていません。一方で、近年、医療レセプトデータなどのリアルワールドデータ(Real World Data: RWD)を用いて、特に成人のさまざまな疾患について、服薬や検査などの治療の現状について検討が行われています。しかしながら、周産期から小児にかけては、RWDを用いた検討はあまり行われておらず、小児の健康や疾病に関するRWDの利用はまだ進んでいないのもまた実態です。そこで本研究では、株式会社JMDCとの共同研究として、小児期のRWDを用いて、小児期の喘息と広汎性発達障害に関する有病率を記述しました。
方法
研究対象者は、株式会社JMDCが保有し、匿名加工情報であるJMDC保険者データベースのうち、2018年1月から2018年12月のデータが存在する0~12歳の小児(12歳については小学生のみ)です。
前述の対象者について、2019年1月から12月に喘息、広汎性発達障害の傷病名がある人を分子として有病率を計算し、性別と2019年1月現在の年齢(1歳刻み)で集計しました。男女差については、割合の差を検討するカイ2乗検定を行いました。なお、喘息については、入院レセプトが存在するものを入院が必要なぜんそく患者として、その有病率を計算し集計しています。
結果
解析対象者は1,167,936人で、そのうち女性は568,861人(48.7%)、男性は599,075人(51.3%)でした。年齢別の対象者数は以下の図のとおりです。
まず、喘息については、下記の結果が得られました。
対象者全体では、女性で192,790人(33.9%)、男性で230,204人(38.4%)が期間内に傷病名を有し、男性で有意に傷病名を有する人が多かった。
年齢別にみると、男女ともに3歳がピークで、その後減少していくことが示された。
喘息による入院については、女性で2,785人(0.49%)、男性で3,949人(0.66%)が期間内に傷病名を有しており、入院に限っても、男性で有意に傷病名を有する人が多かった。
年齢別では男女とも0歳が最も多く、その後減少していくことが示された。
また、広汎性発達障害については、下記の結果が得られました。
対象者全体のうち、女性で6,577人(1.16%)、男性で20,853人(3.48%)が期間内に傷病名を有し、男性で有意に傷病名を有する人が多かった。
年齢別にみると、男女ともに5~6歳がピークで、その後減少していくことが示された。
まとめ
今回の解析では、以下が示されました。
過去の報告、例えば、厚生労働省の患者調査での推計によると、年齢別では小児期に最も多く、小児期では男性が女性よりも患者数が多いことが示されており、今回の結果は、この統計に沿ったものと考えられる。
喘息による入院を集計した結果、全体でも1%に満たなかったが、男性が女性よりも多い傾向は同様に示された。
一方、広汎性発達障害については、アメリカ疾病予防管理センター(Center for Diseas Control and Prevention: CDC)のデータなどで有病率が1~2%、また、男性で女性より数倍多いことが示されているので、今回の結果はそれらに近く、妥当なものと考えられる。
どちらの疾病についても、保険診療上の傷病名と、医学的な診断は必ずしも一致するものではありませんが、これらの結果から、大規模なRWDを用いて、アレルギー疾患や発達障害などについて、経時的な変化などを記述できる可能性がうかがわれました。
疾病の定義や医学的な診断などの限界はあるものの、親のデータや、地域性などを考慮することで、記述だけでなく、分析疫学的な検討を進めていくこともできそうです。
引用:厚生労働科学研究 21DA1002 医療レセプトデータを用いた、小児疾患の有病率に関する研究 報告書原文