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コロナ禍で増えた/減った子どもの病気は?〜150万人のレセプトデータを用いたコロナ禍における小児疾患の調査〜

はじめに


2020年に始まった新型コロナウイルスの世界的な流行は、私たちの日常生活に大きな変化をもたらしました。マスクの着用、オンラインでの授業、ソーシャルディスタンスの確保をはじめとした、新しい生活様式が広がりを見せるとともに、大規模な感染を防ぐことを目的としてスポーツや音楽などのイベントが中止になりました。

その後、ワクチン接種や治療法の確立が進み、2023年3月にはマスクの着用が個人の判断に委ねられるようになり、同年5月には新型コロナウイルスがインフルエンザなどと同じ5類に移行されました。5類移行後も新型コロナウイルスへの罹患者は確認されているものの、今日では概ねコロナ禍以前の生活が取り戻されていると実感される方が多いのではないかと思います。


果たして、コロナ禍における生活の変化は多感な時期を過ごす子どもたちの心身にどのような影響を及ぼしたのでしょうか?

この記事では、「流行以前(2020年1月以前)」「積極対策期(2020年2月〜2023年3月)」「マスク着用見直し後(2023年4月以後)」の3つの区分を独自に定義し(図1)、子どもたちの健康状態の変化について、JMDCが保有するヘルスビッグデータ(※)を用いて調査を行った結果を述べていきます。


図1 コロナ感染者数の推移と本調査における期間区分の定義

調査方法


今回の調査ではJMDCが保有するヘルスビッグデータのうち、0歳から14歳までの約150万人分のデータを用いました。

2019年1月〜2023年10月の各月における各疾患(ICD10小分類レベル)の患者数を算出し、流行以前(2019年1月〜2020年1月)、積極対策期(2020年2月〜2023年3月)、マスク着用見直し後(2023年4月〜2023年10月)の期間区分ごとに月平均患者数を集計の上、積極対策期に患者数が増加した疾患、減少した疾患を抽出しました。なお、本調査では、0歳〜14歳の患者数(当社データと人口データを用いた推計値ベース)が3つの期間のいずれかにおいて各月平均10,000人以上であった疾患を調査の対象としました。


本調査では、

  • 「積極対策期に患者数が増加した疾患」:積極対策期の患者数が流行以前の患者数の1.2倍以上かつ、マスク着用見直し後の患者数が積極対策期の0.8倍以下となった疾患

  • 「積極対策期に患者数が減少した疾患」:積極対策期の患者数が流行以前の患者数の0.8倍以下かつ、マスク着用見直し後の患者数が積極対策期の1.2倍以上となった疾患

とそれぞれ定義します。


調査結果


調査の結果、「積極対策期に患者数が増加した疾患」は新型コロナウイルスを除いて14疾患あった一方、「積極対策期に患者数が減少した疾患」については該当するものがありませんでした(表1)。


表1 積極対策期に患者数が増加した14疾患

ここでは、「積極対策期に患者数が増加した疾患」のうち主だったものについてICD10大分類ごとに調査結果を述べていきます。


[E00-E90] 内分泌、栄養及び代謝疾患

内分泌や栄養に関する疾患として、[E30] 思春期障害,他に分類されないもの、[E61] その他の栄養元素欠乏症、[E66] 肥満(症)が積極対策期において増加していたことがわかりました。

ステイホームという新たな生活様式が取り入れられたことにより外出が制限され、運動会や部活動のイベントが中止になるなど、運動習慣や食生活に変化が生じたことが関連しているケースが含まれると考えられます。

感染症の流行は、これまでにも季節性など特定のパターンで生じることがありましたが、予防のために多くの国民の生活様式を変化させることは、日本において1961年に国民皆保険制度が取り入れられ、レセプトデータという形で医療記録が保存されるようになってから初めてのこととなります。幼少期に数カ月単位で運動の機会が制限されていたことによる長期的な予後は未だ明らかになっていませんが、今回に限らず今後継続的にフォローアップされた文献から、成長過程の運動習慣の重要性などについて新たな知見が得られるかもしれません。


[F00-F99] 精神及び行動の障害・[G00-G99] 神経系の疾患

心に関する疾患として、[F32] うつ病エピソード、[F41] その他の不安障害、[F51] 非器質性睡眠障害、[F89] 詳細不明の心理的発達障害、また[G47] 睡眠障害が積極対策期において増加していたことがわかりました。

小児のこころに関連した受療は、コロナ禍以前から一貫して増加傾向にあった一方で、今回の調査でマスク着用見直し後の患者数が積極対策期より減少していることも確認されました。生活様式の変化や、新型コロナウイルスという未知の感染症への恐怖、またオンラインでの授業といった友人や周囲との関わり方の変化が心身の変調をもたらした可能性がうかがえます。


[L00-L99] 皮膚及び皮下組織の疾患

皮膚の疾患として、[L70] ざ瘡<アクネ>(いわゆるニキビ)、[L81] その他の色素異常症が積極対策期において増加していたことがわかりました。その他の色素異常症のうち増加に大きく影響したものは、炎症後色素沈着でしたので、こちらもざ瘡などの皮膚感染症との関連がうかがえます。

一般に、皮膚への機会的刺激が持続することやムレが皮膚感染症の発症や増悪を招くことが知られていますので、マスクの着用をはじめとした行動変容がこれらの疾患に繋がったと考えられます。感染症の予防にはマスクの着用を避けて通ることはできませんが、皮膚のケアとセットで行っていくなど、マスクを着用する際には何らかの対策をする必要があるでしょう。


おわりに


コロナ禍における子どもたちの健康状態の変化について調査を行い、実際にいくつかの疾患分野ではコロナ禍で患者数が増加していたことがわかりました。新型コロナウイルスは5類に移行し、徐々に私たちの生活はコロナ禍以前の姿を取り戻しつつあるといえるのではないでしょうか。しかしながら、いつ未知の感染症が流行し、再びコロナ禍のときのような生活様式の変化が訪れるかはわかりません。

コロナ禍で得られた知見を基に、パンデミックが生じた際に、どうすれば子どもたちの健康を守っていけるのかを検討することが重要だといえます。また、コロナ禍を過ごした子どもたちの長期的な予後の観察は、運動習慣と健康の関係性、学校や塾での友人とのコミュニケーションと精神的な発達との関連性など、子どもたちの健康増進を考える上で重要なヒントとなるのではないでしょうか。

なお、コロナ禍で患者数が減少していた疾患分野については、今回の調査では該当するものがありませんでした。要因として、マスク着用見直し後のデータが2023年4月から10月に限られたことで、冬季に多いことが知られている疾患分野に関して、マスク着用見直し後の患者増加を十分に検出できていないことが考えられます。今回の調査では、積極対策期の患者数が流行以前の患者数の0.8倍以下となった疾患として、急性鼻咽頭炎(かぜ)、インフルエンザ、急性気管支炎、喘息などが見つかりました。これらの疾患についてマスク着用見直し後に関する通年のデータがそろった段階で、あらためて追加調査を実施したいと思います。


株式会社JMDC 製薬本部企画部 / プロダクト開発部

小邦 将輝


※ 本調査ではJMDCが保有する匿名加工が行われた健康保険組合由来のレセプトデータ(診療所や病院が発行する診療明細書のこと)を用いました。

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