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COVID-19関連連載 第4回 新型コロナ前後で増加した/減少した病気は?

新型コロナ前後で増加した/減少した病気は?~2018~2019年度と2020~2021年度の比較~



2020年3月から、当時は未知のことが多かったCOVID-19のまん延を防止するために、全国一斉休校が行われました。再開後も、マスク装着、黙食など、コロナ以前にはなかったスタイルでの学校生活が続いています。

新型コロナ以降、こころのケアが必要なこどもが増加しているといった報道をご覧になった方も多いかと思います。また、本連載の第2回でとりあげたように、新型コロナ以降、COVID-19以外の感染症の多くが減少したことも分かっています。


今回は、JMDC保険者データベースより、2018年4月~2020年3月の24ヶ月間と、2020年4月~2022年3月の24ヶ月間について、疾患領域ごとの国内推計患者数を比較してみました。国際疾病分類であるICD-10の大分類ごとに集計すると、新型コロナ後に小児で増加している疾患領域や、新型コロナ後に小児で大幅に減少している疾患領域がみえてきました。



まず、全ての大分類について網羅的にお示しします。

このグラフでは、新型コロナ後の2年間で、新型コロナ前の2年間よりも推計患者数が増えている疾患領域であれば1を上回ることになります。C00-D48新生物<腫瘍>やQ00-Q99先天奇形,変形及び染色体異常については、いかにも新型コロナウイルス感染症の影響が少なそうな疾患ですが、実際成人・小児ともに1となっており、推計患者数に増減がなかったことがわかります。


一方、多くの疾患領域で、成人、小児ともに1を下回っており、推計患者数が減少していることがわかります。

この数は、実際に医療機関を受診して診断名がついた人数をもとに推計されたものです。そのため、減少については「念のためいつか受診して相談してみようか…」と検討した健康不安の一部について、不急の受診がはばかられる状況下で、ご自身での情報収集やセルフメディケーションで解決されたり、なかにはオンライン健康相談サービスで代替されたりしたことも考えられます。


さらに細かく見てみると、成人と比較した場合に小児で減少割合が数%上回る疾患領域が多いことにお気づきになるかと思います。これは、推計患者の母数となる日本人口が、小児では3.0%減少しているのに対して、成人はほぼ同数でしたので、その影響を受けたものと考えられます。

(参考)日本人口

2020年4月~2022年3月 期間計 0-17歳:18,374,218人, 18歳以上:110,180,551人

2018年4月~2020年3月 期間計 0-17歳:18,932,000人, 18歳以上:110,115,000人


一方で、以下のような例外的なパターンもありました。


例外パターン①

成人では推計患者数がほぼ変わらないが、小児では推計患者数が増加

(F00-F99精神及び行動の障害、G00-G99神経系の疾患)


​例外パターン②

小児・成人ともに推計患者数が減少しているが、小児は減少割合が少ない

(J00-J99呼吸器系の疾患、P00-P96周産期に発生した病態)


例外パターン③

小児・成人ともに推計患者数が減少し、特に小児における減少が顕著

(A00-B99感染症および寄生虫症、E00-E90内分泌, 栄養及び代謝疾患)


各パターンについて、詳しく見ていきたいと思います。



例外パターン①:成人では推計患者数がほぼ変わらないが、小児では推計患者数が増加

例外パターン①のF00-F99精神及び行動の障害、G00-G99神経系の疾患では、成人では推計患者数がほぼ変わらないものの、小児では推計患者数が増加していました。

F00-F99精神及び行動の障害の内訳で最も多く、大分類全体の増減に大きく寄与したのは、小児では発達障害、成人では気分障害でした。小児では、既に知られている発達障害、気分障害だけでなく、遺伝的な素因が比較的強いと言われる統合失調症も約1.1倍に増加していました。また、増加のペース自体は2020年以前と以後で大きな変化がみられませんでしたので、新型コロナウイルス感染症がこれらの増加に寄与したかどうかは分からず、児童精神科専門外来の増加や、小児が服用可能な新薬の上市など、小児が精神科を受診しやすい環境面などが関連した複合的な要因が考えられました。

G00-G99神経系の疾患の内訳で最も多いのは、小児では頭痛次いでてんかん、成人では不眠でした。小児のてんかんは減少し、頭痛の増加がGコード全体の増加に寄与していました。運動時間の減少、モニタ視聴時間の増加などが、小児の頭痛の増加に複合的に影響していることが考えられます。


例外パターン②:小児・成人ともに推計患者数が減少しているが、小児は減少割合が少ない

例外パターン②のJ00-J99呼吸器系の疾患、P00-P96周産期に発生した病態では、小児・成人ともに推計患者数が減少していますが、小児では減少割合が相対的に少なかったです。

J00-J99呼吸器系の疾患の内訳で最も多く、大分類全体の増減に大きく寄与したのは、小児・成人ともに上気道炎でした。COVID-19の感染が同定されたものについては、このJコードとは別の「U071コロナウイルス感染症2019」として登録されますので、その他の呼吸器感染症が小児・成人ともに減少した結果があらわれたようです。

ただし、小児については講じられる感染対策に限度があるため、成人よりも減少割合が少なかったか、あるいは小児については風邪をひいた時の重症度が保護者の方にわかりにくく、コロナ禍においても受診行動の抑制が少なかったことなどが考えられます。

P00-P96周産期に発生した病態の内訳で多く、大分類全体の増減に大きく寄与したのは、小児では低出生体重、成人では胎児発育不全でした。前者は児に対する病名、後者は便宜上母体に付す病名で、出生前後の一連の病態ではありますが、減少割合には差がみられます。Pコードについては小児・成人とも、JMDC保険者データベース上の実患者数が数千人単位のところから推計した人数であり、他の大分類よりも誤差が出やすかったかもしれません。


例外パターン③:小児・成人ともに推計患者数が減少し、特に小児における減少が顕著

例外パターン③のA00-B99感染症および寄生虫症、E00-E90内分泌, 栄養及び代謝疾患では、小児・成人ともに推計患者数が減少していましたが、特に小児における減少が顕著でした。

A00-B99感染症および寄生虫症で最も多く、大分類全体の増減に大きく寄与したのは、小児・成人ともに胃腸炎でした。E00-E90内分泌, 栄養及び代謝疾患で最も多く、大分類全体の増減に大きく寄与したのは、小児では脱水症、成人では脂質異常、ついで糖尿病でした。

脱水症の多くは胃腸炎に続発するため、Aコード、Eコードともに小児では消化器感染症の減少が影響したものと考えられます。

成人のEコード全体はほぼ変化がありませんでしたが、成人で圧倒的に多数を占める脂質異常や糖尿病はコロナ禍においても減少がみられなかったので、その影響が強くあらわれたようです。

基本的な感染対策は、胃腸炎の予防にも効果的であることがうかがわれました。



まとめ

・新型コロナ前後で、多くの疾患領域で、小児・成人ともに患者数が減少

・精神・神経疾患は、小児では新型コロナ以前からの増加傾向が継続

・風邪などの呼吸器疾患は、小児では成人ほどの減少はみられない

・消化器感染症や脱水症は、小児で大きく減少

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